2018年10月17日に初出の投稿

Last modified: 2018-10-17

著者は同記事において、プログラマが概して不規律であるという可能性を検討していません。また、Kent BeckやWard Cunningham、Martin Fowlerといったソフトウェア専門家にもインタビューしていません。著者は、プログラマの仕事の質さえ向上すればソフトウェア大惨事を回避できるかもしれないという考えを、完全に避けています。そして、ソフトウェア大惨事の回避、つまり質の悪いコードをなくすには、もっとコードを書くことが必要だと信じ切っているように見えます。

ツールは解決策ではない

"undesciplined" を「不規律」なんて訳してるけど、その段落を読んでから訳せば、こんなおかしな訳にはならない筈だ。この記事を英語で読んでから訳してるんじゃなくて、最初の文からいきなり翻訳してるんじゃないか? ここで著者が言ってるのは、プログラマは概して「ルールに従わない」ということにすぎない。だからこそ、ツールが解決になるとは限らず、単にちゃんと仕事をさせるだけでいい場合があると言ってるわけだよ。

さて記事の論旨についても書いておいた方がいいだろう。The Atlantic の記事に対して、ブログ記事の著者は「ツールは解決ではない」という。そして、開発上のルールや規律を守らずに「急ぎだから」「納期が短いから」「面倒だから」「給料が安いから」「クソみたいな仕事だから」とか何とか色々な理由をつけて手を抜く。どこかの誰かが言った「名言」として、プログラマの本質は手抜きであるという話だが、それは同時に仕事に対する熱意や責任感の欠如を正当化する無能どもの言い訳にも転嫁してしまう。こうした思考への挑戦がソフトウェア開発にまつわるあれこれの管理手法なのである。どういう分野・商材・業界であろうと、無能や凡人をコントロールしなくてはコストも時間もかかるという課題、つまり「マネジメント」と呼ばれる課題は、部門長として誰もが抱えているテーマだ。そして、ベンダーや IT 企業では、デザイナーやプログラマといった、実はそういう職業についているというだけで大してクリエーティブでもなければ色彩心理学やパソコンの仕組みや通信についてよく知っているわけでもない凡人どもを支配する(あるいは快適に仕事をしていると思い込ませる)ための色々な手法を使って行かなくてはいけない。

もちろん、僕らのように並外れた能力と実績を有している(が NDA で公表はできないので、関西の大手広告代理店の人しか知らない)人間からすれば、納期が短いなんてよくあることだし、客がいきなり工期を短く切ってくることも多い。おまけに値切るわ、意味不明な利害関係でセキュリティレベルを下げさせられるわ、色々な事情で仕事の条件は悪化するのが普通だ。なにせ、発注者の大半はせいぜい上場企業で VB しか書いたことがない情報システム担当者や、文字の級数やブロックバスターすら知らない広告宣伝部のペーペーである。バカではないにしても、われわれと比べれば凡人である。したがって、何事もバッファを確保することが大切だ。3日で十分にテストや再確認を取れるなら、二週間の工数を確保するべきである。何も安売りが自分の首を絞めるのは価格だけではない。工数も、安売りすれば自分の首を絞める。5日で納品できるものを5日でできるとか、果ては徹夜して3日でできるなどとやるのは、しょせんブランド力がない零細企業の営業テクニックでしかない。そんな会社は、最初は仕事がとれても、そのうち社内が疲弊する。そして新規の採用も困難になり(そんな会社の評判がネットで広まらないわけがない)、どれほど売上があっても人材不足で黒字倒産するか、外注費ばかりがかさんで赤字というのがよくある。

こうしたことを「イケてる」ツールや「ナウい」プログラミング言語の採用で解決できるとか、gamification みたいな上場企業の役職者が始めるお遊び、もしくは採用・渉外目的のパフォーマンスで自社のパフォーマンスが安全になったり向上するなどというのは錯覚である。それこそ、そういうものに頼ろうとする部門長が凡人どころか無能である証拠だ。

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