2019年10月07日に初出の投稿

Last modified: 2019-10-07

現在のインターネット回線に加えて、もう一社の回線を冗長化などの目的で引こうというアイデアは、幾つかの事情があって経営会議での起案を取り下げた。第一に、制作部署で動画の編集などを事業として始めてはいるものの、回線の品質にはさほど困っていないからである。そして第二に、ウェブの受託制作は業界全体がいわゆる「シュリンク」の段階に入りつつあり、電通や博報堂を始めとする大手でも、ウェブサイトの新規構築やリニューアルという案件は減っているし、そもそも単価が落ちているため、収益率が悪い事業と見做され始めている。簡単に言えば、手間がかかる割に儲からないというわけだ。このように儲からない事業の状況で、業務環境だけ先に改善するというのは、普通の会社なら投資に該当する判断なので、よほどの強い見通しや根拠がないと財務を動かすことはできない。そして、今回は財務を動かすほどの根拠はないのであった。

これはもちろん、当サイトのページや個々の《落書き(Notes)》を読んでいる方であれば、10年くらい前から僕が同じことを言ってるのはご存知だったろうと思う。そしてこれは、僕がワープロの入力業に携わっていた経験と似ているからでもある。ワープロの入力業という仕事が出てきた1990年代の前半は、まだオフィス・スイートも普及していないし、そもそも文書がデジタル・データではなかった。それゆえ、綺麗な体裁の文書というのは、まずワープロに入力してデータ化してもらい、高価な業務用のワープロでレーザー出力したり、あるいは電算写植で版下を作ってから印刷でもしないといけなかったわけだが(まだ当時の会社で使っていたプリンタはドット・マトリクス式だった)、同じ品質の文書を1枚当たりのコストはともかくとして20万円ていどの家庭用ワープロでも出力できるようになると、入力業を学生や主婦が低額で担うようになり、とどのつまりは入力工数だけの問題になったため、ワープロの入力事業というのは「業界」などと言えるものが成立しないうちに崩壊してしまった。いまどき、わざわざ印刷会社に Word の文書を綺麗に出力してもらう会社なんてないだろう。それどころか、Kinkos のような出力センターすら経営が難しくなってきている。

ということで、ウェブサイトの構築にも同じようなことは言える。最初は、美しいページのデザインなんて素人が簡単にできるものではなかったが、いまでは出来合いの WordPress のテンプレートが無料で幾らでも手に入るし、そもそもウェブサイトなんて必要なのかという議論が多くの会社(特に地方の中小零細企業)では、昔から根強かった。そして、それを覆すような実績というのが、実はこの業界からは全く出てこなかったのである。SEO などで売り上げが何倍なんて話は、だいたいが都合のいい与件だけのデタラメだ。なぜなら、サイトを持っている方が有効な業種で、サイトを持っていなかった会社がサイトを作ったという、結果が出て当たり前の与件で仕事をしただけだからだ。そして、僕らが手掛けているような上場企業や大手企業のキャンペーンなども、そもそも有名な企業の事案で、芸能人も使ってるし、パブリシティにも予算をかけるわけだから、一定のアクセスが集まるのは当然である。そして、その「一定の」という基準は、取り上げる商品も、使う芸能人も、キャンペーンを展開するプラットフォームも、そして制作会社やデザイナーも毎回のように違うとなれば、正確に比較する前例がないか、非常に少ない。よって、アクセスがどれだけ集まっても代理店は成功だとしか評価しない。残る大半の中小零細企業のウェブサイトというものは、僕が既に書いたように、そもそもウェブサイトなんてもとから必要ない業種や事業者にとっては名刺代わりにすらならないし、大半の事業者は既製品を並べているだけの凡庸なリテイラーか、際立った才能もない個人事業主なのだから、ウェブサイトをわざわざ作って宣伝したところで、探してくれる人などいない。逆に、既に存在する事業者や個人事業主の検索サービスなどに登録したり、何らかの個性があるなら Facebook のように SNS で独自のコンテンツを(自前のウェブサイトなんてなくても)公開し続ける方が効果的だ。

そういうわけで関西でもウェブ制作・構築の事業者は、動画編集や SNS の運営などという、コンテンツ制作寄りの事業か、あるいは企画・広告寄りの事業へ拡大するなり転換しないと、大手の広告代理店の案件には対応できなくなってきているというのが実情だ。そして、アプリケーション開発は、ウェブ・アプリケーションと一口に言えるようなものではなくなり、従来の問い合わせフォームを作っていたような企業ではモバイルのアプリに対応できないということが多くの代理店に知られるようになっているので(パソコンのブラウザしか考えずに仕事をしてきた、Perl や PHP、せいぜい Java しか書けない人材が多いオープン系のベンダーでは、無理だろう)、それぞれで専門の事業者に依頼するということになる。そして、ウェブの制作会社はそういう事業者との連携ができるかどうかという点でも、幅広い知見やつながりが求められている。つまるところ、実務側では完全に「エージェンシー」(広告代理店も "agency" だが、実務制作サイドで同等の広い守備範囲を求められる)としての能力がない限り、大手広告代理店のウェブ事業に対応することは難しくなっている。

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