2018年05月22日に初出の投稿

Last modified: 2018-05-22

Google社員が書いたメモ「Google's Ideological Echo Chamber」の翻訳

翻訳を再開した "Google memo" だが、ダモアの「公式サイト」で公表されている文書には、出回っている PDF と異なる点が多々あるので、いま両者の相違を確認しているところだ。僕の所見では、firedfortruth.com に掲載されている方は騒動になってから公開された文書だし、もちろん PDF で出回っている文書が何回かの批評と推敲を経ているらしい(でなければ、冒頭に "Reply to public response and misrepresentation" なんていう「返事」をそもそも書くわけがない)ので、その途中のバージョンだった可能性はあるのだが、大勢が話題にしているのは Gizmodo らが公表した PDF だし、ダモア自身が今年の1月に Google を訴えた complaint の添付書類 "EXHIBIT A" は PDF 版の方なので、いま書いている論説では訴状の添付書類を元に翻訳している。サイトで掲載されている文書は実際に書かれた時期が分からず、当人は冒頭で "edited purely for formatting purposes" と言っているが、実は追加されている一節がある。また、上記で述べた "Reply to..." や短い概要もサイトでは削除されているし、そして何より本文から注釈の番号が削除されているのに後注の文章が残っているというおかしな体裁になっており、翻訳すべき文書としては選べないと判断した。

なお、既に幾つかの翻訳があるのは知っているが、前にも述べたように行政文書でもなければ public domain や CC を宣言している文書でもないのに、当人からの承諾も受けずにクソみたいな善意や興味本位だけで「やってみた」式の、しかも粗悪な翻訳を公開して社会貢献でもした気になっている人々は、論点が混乱したり無視される可能性があるので、勝手に頒布している点はもちろん駄目だが、せめて適度なタイミングでフォローしたり修正するくらいのことはしたらどうなのかと思う。山形浩生さんのような人物は覚悟のある「活動家」として、いわばゲリラ頒布(翻訳そのものは誰でも勝手にできる。それは自明だ)を推奨しているのだろうけれど、素人が粗悪な翻訳文書をばら撒いたところで社会科学的な何らかの指標による改善とか向上を期待できるのかと言えば、僕はかなり悲観的だ。1,000年経っても、そんなことをした効用など社会科学的に測定可能な何らかの指標において誤差の範囲に収まってしまうだろうと思う。(もっとも、「それでもいいさ、るるるー」というセンチメンタリズムが日本の凡人の「美学」なのは知っている。)

たとえば、TOEIC 満点を自称している人物の訳文では "tech" という言葉を「テクノロジー関係の分野」と訳しているのだが、本当に本文を英語だろうと日本語だろうと読んで、何が書かれているかを理解したのかと言いたい。単語や句の変換作業だけなら機械でもそれなりにできる。いわゆる機械的な作業というやつだ。しかし、それだけだと人が読んで意味が通らないのは、脈絡とかコロケーションというものがあり、そういうものを或るていど弁えて留意している人間が訳すからこそ、単なる変換作業ではない、人からお金をいただける翻訳という仕事になるのだ。そのためには、その文書が何を言っているのかを(たとえ実際には支離滅裂なことを書いていても、その支離滅裂さを)正確に理解することが大切で、まずはその文書を読めなくてはいけない。であれば、ダモアが注釈の3に "Throughout the document, by “tech”, I mostly mean software engineering." と書いていることを読んでさえいれば、"tech" という言葉を「テクノロジー関係の分野」などと訳すのは、IT ジャーナリストが「テック業界」などと分かったような分かっていないような訳し方をしているのと同じだということが分かるはずだ。(つまり、ダモアは彼を批判する人たちが思い描いているよりも狭い分野や職能について語っていたのだということが、これで分かる。)そして、ここを誤訳することによって、原文を参照しない人々は、ダモアが IT 業界全体で逆差別があるという一般論をしているかのように誤解してしまうことになる。

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