2018年12月12日に初出の投稿

Last modified: 2018-12-12

東京・六本木の青山ブックセンターの跡地で11日、入場料1500円を支払う書店「文喫(ぶんきつ)」が開店した。出版不況のなか、本の販売以外の新たなビジネスモデルを探ろうと入場料制を導入。付加価値のある空間を目指すという。

入場料1500円の本屋 検索機なし、50音順に並べず

相変わらずだな。

青山ブックセンターと言えば、僕が周辺の CBS ソニーや Epic ソニーといったレコード会社を編集者として歩きまわっていた80年代後半、つまりはニューアカ時代の「聖地」の一つであった。いまで言えば耽美系お勉強君や元スピノザ学者や岸君のような文壇の「スター」、つまり吉本隆明や浅田彰やビートたけし(笑)が、刹那的かつ無意味なテーマについて思い付きのタワゴトを喋りまくり、そこには、世の中どころか聞きに来た個人にすら何のインパクトも与えなかったであろう些末なイベントを繰り返したセゾン×博報堂×糸井重里という強力タッグが生み出した「おしゃれで知的に軽やかな生活」幻想の一風景があったと言ってもいい(ちなみに、僕は糸井さんの会社の「ほぼ日手帳」を10年近くは使っている)。

そして、既に都内ですら殆どブランド力がなくなった「青山」に、日販のような(出版物を扱っておきながら根本的に情弱の)企業は、まだしがみつこうというわけだ。恐らく、いまだに昔の幻想に引きずられている汐留や赤坂あたりのロートルが企画を押し込んだのだろう。そして、自分たちのプロパガンダのスキルがあれば、まだ都内の田吾作「東京人」たちからそれなりの収益を巻き上げられるというわけなのだろう。

このような「変わり種の書店」というのは、いまや実店舗の生き残り戦略と称して多くのコンサルやコーディネーターや経営者自身が色々な媒体で体験談や、あるいは自分ではできもしないようなホラ話を撒き散らしているが、しょせんリテイラーはリテイラーとしての限度があり、そもそもアマゾンが出現するどころか通信販売という業態によって「商圏」という概念が通用しなくなった今日においては、いずれ「変わり種」の飽和によって予定調和的な店舗は経営を続けられなくなる。そして、上記で解説されている「マイナーな本」「高額な本」を置くしかない店舗だと、結局はそういうものを買える人々しか相手にできないので、専門的であったり高額な本をわざわざ買うような水準の大学生や職業人が年を追うごとに減っている今日では、どのみち先細りだろう。

そして、そういう日本の状況を作った責任は、もちろん日販のような取次店にもあるのだ。

[update] あるいは、その書店でしか買えない本というのが増えてくると面白いような気はする。それなら、他のリテイラーがビジネスモデルを模倣しても別の本の供給場所が増えるだけだ。日販は卸なわけだし、日本のような社会主義国家において長らく権勢をふるってきたわけだから(笑)、『日本国紀』は奈良でしか買えないようにしたり、岩波文庫の『資本論』は富山でしか買えないようにすればいいのではないか。(もちろん皮肉だと分かるとは思うが。)

[update2] 店内に入った感想を別の記事で読んでみた。これも連れ合いから紹介してもらったページだ。利用方法などの説明を読んだ限りでは、もちろん店内の本は購入できるから書店ではあるのだろうけど、どちらかと言えば本をテーマにしたよくわからないスペースという印象を受けた。マンガ喫茶ならぬ単行本喫茶のようにも思える。時間が無制限で机や無線を利用できるのであれば、確かにマンガ喫茶の料金として終日 1,500 円というのは安いのだろう。しかし、そういう場所なのかという気もする。それに、気が向いたときに立ち寄って、これまで見たこともない本に出合うといった、いかにも広告代理店が考えつきそうな話にしても、僕は本がよく分からない理由で並んでいる書店や図書館など利用する気が全く起きない。これまで読まなかったようなジャンルや作家の本というものは、それこそ自分の気が向いたときに棚を物色すればいいのであり、そしてそういう発見を書店という現地でやるという料簡は、いまどき書物を読んだり買ったりする動機やきっかけとして脈絡が制約されすぎている。たとえば、アニメで登場人物がぶつぶつと言っていた作家の名前で調べたら興味が出てきたので、何か一冊でも読んでみようと思ったという人がいるだろうし、他のジャンルの本を読む(これまた広告代理店や業界人が好きな言葉だが)「仕掛けづくり」なんて書店が人為的に制約したり決めるべきではないのだ。書店の役割というものは、その場で見つけたというだけではなく、もっと広い脈絡や経緯で本を求めに来た人々へできるだけたくさん置いて提供できるようにすることが本旨だろう。上記のような「仕掛け」に乗って 1,500 円を払ってやってくる人が都内にどれだけいるのか。

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