2018年03月07日に初出の投稿

Last modified: 2018-03-08

会社で代表メールアドレスは、実は僕だけが受信している。もちろん、スパムを振り分けて経営会議に送ってよいものだけをスクリーニングするためだ。

やれ毎日のようにマーケティングを手伝うだの、プログラマを雇う気はないかだの、元自衛隊員を紹介するだのと営業メールがやってくるが、そういうメールを送ってこられても意味がない。もちろん、営業メールの他にも、中小企業さんからサイトを制作してほしいという依頼もあるにはあるが、正直言ってそういう会社さんは委託にあたっての予算感がないので、ほぼ全ての事例で成約はしない。例えば、問い合わせフォームをデザインとプログラム実装で合計すると30万円くらいの見積もりになるのだが(もちろん二次請けとして僕らが代理店さんに請求する段階での金額でもこれくらいになる)、かなりルーズな財務のワンマン経営でやってる化粧品会社とか不動産会社でもない限り、そういう予算規模を確保できる中小企業は殆ど存在しないだろう。そして、これは別に当社がお高くとまっているからではなく、丁寧にコストを計算すれば当たり前のことであって、個人事業主や零細デザイン会社の見積もりが甘すぎるだけなのだ。はっきり言って「ダンピング業界」とすら言っていいほどの安値が常態化している。

会社法や財務会計を勉強したり、実際に会社を経営していなくても単純な計算だけでわかるように説明すれば、次のようになる。問合わせフォームを制作するために要する標準的な人員として、(1) デザイナー、(2) プログラマ(コーディングはデザイナーかプログラマが兼務するものと仮定)、(3) ディレクター(または営業)、(4) バックオフィス(経理事務)、(5) 経営者という構成になる。問い合わせフォームを制作するのにかかる標準的な工数としては、(1) 2人日(修正含む)、(2) 2人日(テスト含む)、(3) 2人日(キックオフ、初稿提案、フィードバック、二次稿提案、納品にそれぞれ3時間使うものとする)だ。バックオフィスと経営者は、もちろん実働時間など数十分か実質はゼロに近いが、会社とはそういう人員の人件費も考慮して、下記で説明するように全体配賦として原資を確保しないといけない。工数の見積もりは、発注する側にすればデザインだけで2人日を想定するのはぼったくりに見えるかもしれないが、受注する側にしてみれば、発注側の決裁権者がデザインを決められずにズルズルと工数を使って他の案件を受注できなくなるリスクを考えたら当然だ。20年くらい前の勃興期ならともかく、いまや当たり前の職業の一つになったウェブサイトの制作は、慈善事業でもなければ、別に滅私奉公で昼夜を問わずに誰もがやりたいと思う仕事でもない。何案も中小企業のページデザインに知恵を絞るわけがなかろう。こういうことは事務作業なのだ。

次に、各職能に応じて単価が設定されている。これも企業の経営として考えると、「全体配賦」と言って、直に金を稼がなくても企業の運営には必要な人材、経理担当者や人事担当者を雇用するコストも全ての受注案件の売り上げから捻出しなくてはならない。また、当然ながら事業所の家賃とか電気代もかかるし、会社経営をしていれば当たり前のことだが、従業員にかかる人件費というのは手取りとして銀行口座に振り込む金額だけではなく、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料、それから所得税や住民税の徴収代行をして、一部を会社が負担して各方面の行政機関に納付している。経営側にいた人なら誰でも知っている常識だが、おおよそ一人の従業員を雇用するのにかかる人件費の総額は、手取り給与の3倍ということになる。30万円の手取りをもらっている人間は、30万円を売り上げたからといって、今月は自分がやるべき仕事をしたと思ってはいけないのだ。ということで、愚かな発注者は目の前にいる小僧に小遣い銭を渡す感覚だとすぐに「高い」と不平を口にするのだろうが、企業に発注する場合の1人日あたりの工数単価は、必ずしも当社の基準をそのまま紹介しているわけではないが、まともに財務会計をやっている会社であれば (1) 50,000円、(2) 40,000円、(3) 80,000円、くらいで設定しているだろう。バックオフィスと経営者は全体配賦で人件費を捻出するので、単価は設定しない。これを上記の工数見積もりと合せれば、50,000 x 2 + 40,000 x 2 + 80,000 x 2 = 340,000 円となり、最初に書いた30万円という数字の根拠になる。つまり30万円でも「勉強」した見積りなのだ。

ついでに上記の工数単価から別の計算をしてみると、デザイナーが実働22日で全て稼動できたとすれば、50,000 x 22 = 1,100,000 円という売り上げになる。もちろん、これを単純に 1/3 として給与にするわけではないが、こういう見積もりを出している会社でも、1/3 として単純計算すれば、デザイナーの給与は 350,000 円くらいが上限だろう。大多数のウェブ制作会社ではボーナスなど出せないので、そのまま掛け算すれば、このデザイナーの年収は 420 万円だから、たいていの発注側企業の人々と大差ない収入と言ってよく、何も暴利を貪っているわけでもないと分かる(自分たちにできもしない仕事を代わりにやってもらっておいて、「デザイナーは年収 200 万円くらいで共働きすればいいだろう」とかアホのようなことを無邪気に考えてるなら別だが)。

さて、実はこういう話を書くつもりではなかったのだった。会社の代表メールアドレスに、今日は「2月分請求書」という件名でウイルスメールが山のようにやってきているという話を書こうとしていたのだが、なぜかこういう話になった。ともあれ、受注金額はどんどん実勢価格が下がってきており、反比例するかのように社員の実働時間は増えるばかりだ。結果として、労働力の単純な安売りでしか仕事が取れないようになっているわけで、これは経営の問題というよりも、寧ろもっと外部の状況、つまり多くの企業ではいったんコーポレートサイトを作ってしまって、しかもリニューアルする必要性も感じていないということや、そういう事情があるにも関わらず、ウェブ制作の事業はパソコン一つあれば簡単に参入できるので、安易に続々と起業してレッドオーシャンになるという事態に起因するように思う。

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