2019年01月29日に初出の投稿

Last modified: 2019-01-29

古書が充実している点が特徴で、南大阪地区では知名度が高く、通勤通学のサラリーマンや学生等を主要顧客に、ピーク時の平成11年5月期には売上高約29億900万円を計上していた。

http://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20190128_01.html

天牛堺書店が事業を開始したのは、僕が生まれた年と同じで50年前だから、書店としては堂々と「老舗」を名乗っていいと思う。実際、東京商工リサーチの定義では30年以上の事業継続企業を「老舗」と定義している。ちなみに他の報道や記事を見ていると、いまどき「作之助の作品に出てくる天牛書店ではない」などと書いている者がいるが、織田作之助を知ってるくらいの人間なら区別しているはずであり、このような但し書きは役に立たないクソ蘊蓄であるばかりか、老舗と言ってよい他の事業者に失礼というものだ。だいたい大阪では、既に他方の「天牛書店」と言っても天神橋筋商店街にあるやたら狭い店のことしか知らない人が大半であって、織田作之助はおろか、江坂の住宅街にある隠れ家のような店舗に至っては大学院生ですら一度も行ったことがないか知らない人が大半だ。

さて、上記のとおり、平成11年度に売り上げのピークがあったという。平成11年と言えば1999年であり、しばしば実店舗の書店や古書店が倒産した「原因」と名指しされるアマゾンの日本法人が設立されたのが前年の1998年だった。しかるに、事の推移を眺めていけば、「ネット販売が書店を潰した」などということくらい、小学生でも言えるわけである。マーケットプレイスが2002年から始まっているので、実際には今世紀に入ってからアマゾンでセドラーがモールの機能を使って出品し、古本を売るようになった。

もちろん、天牛堺書店に限らず実店舗の多くは対応が遅かったとも言いうる。楽天やアマゾンを始めとするオンライン・サービスだけを販路として何社も(もったいない本舗やバリューブックス)が成功しているのだから、オンラインでの取り引きを推進する部署でも作っていたら良かったとも言えるからだ。しかし、このようなオンラインの取引を誰もが最初は疑いの目で見ていた。当時はヤフオクから現在のメルカリに至るまで、オンラインの販売取引仲介サービスというのはロクでもないと見做されていた。出品者にとっても管理システムが使いづらくて手間がかかるし、購入者にとっても詐欺に遭うリスクが大きかった。プラットフォームを利用するだけのユーザ企業に、そういういくつかのリスクを抱えたまま販売プラットフォームとして育てていくだけの余裕はなかっただろう。

しかし、先の Note でも書いたように、これをアマゾンに負けただのという簡単な理屈で済ませるような論評は、はっきり言ってばかげている。オンラインのサービスに客が逃げているのが分かったら、オンラインでも展開すればいいだけのことだからだ。何も、実店舗を経営している書店がアマゾンのマーケットプレイスを使ってはいけないという契約上の制限はない。そして、天牛堺書店という会社は古本だけを売っていた会社ではないのである。

ここで一つのヒントになるのが、昨年の売り上げが約半分の16億円になっていたという事実である。売上が減っているのは、もちろん店舗を減らしたことによるのだろう。しかし、店舗数を単純に半分に減らしただけで売り上げが半分に減るというものでもない。減らした店舗を閉鎖せずにいたら売り上げが倍になっていた筈だと言えるなら、そもそも店舗を減らす理由などないからだ。結局、企業経営を評価するために重要なのは、見た目の売上額や調整後の経常利益などではなく、本業の正味の結果である営業利益である。店舗を増やせば増やすほど営業利益が減っていくなら、これは単純に店舗を維持する人件費や調達原価が財務に悪影響を与えていると言える。そういう影響が大きな店舗は、当然だが不採算の店舗として閉鎖する対象になる。しかし、本社の決定で店舗は簡単に閉鎖できても、社員は簡単には解雇できないので、スタッフがすべてアルバイトだったらともかく、正社員であった場合は、店舗を閉鎖した際の負の影響をなくすまでのタイムラグがある。

ということで、僕の見立てでは天牛堺書店さんの事業が立ち行かなくなった大きな要因は、平成に入ってから続々と支店をオープンさせたことによる営業キャッシュフローの悪化だと思う。実際、銀行も融資の参考としてキャッシュフロー計算書を見ていたはずだ。そして、不採算の店舗を閉鎖してもキャッシュフローなんて簡単には改善しないのである。そうして、金融機関に対しては返済条件の見直しを何度かやってもらっていたと書かれているが、見直しにあたっての目安となる財務キャッシュフローというものは、いくらでもどこからでもいつでも借りて黒字にできるものではないのだから、銀行が一行でも手を引けば簡単に赤字になりうる。

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