2019年02月07日に初出の投稿

Last modified: 2019-02-07

日本語入力のオンとオフの切り替え(IME ON/OFF)

何度か書いているが、僕は20代の頃は父親が勤めていた会社から仕事を受けて、富士通 OASYS の業務用ワープロで入力業(つまりはキーパンチャー)をやっていたことがある。おおよそ OASYS は業務用のマシンから家庭用のマシンまで3台ほどを10年くらいは使っていた。しかし、これも多くの方がご存知の通り、ワープロの入力業務はわずか5年くらいで受注価格が崩壊してしまい、バイト主婦が A4 で約 1,000 文字の入力を 100 円や 200 円で受注するようになってしまって、そういう人たちを使役するブラックな元締め会社ですら食べていけなくなった。そうしているうちに Windows 98 などが発売されると、それぞれの企業では事務職の「女の子」に入力させておけという差別的な実態が当たり前となって、わざわざ金を払って文書を入力してもらうなどということはなくなったし、そもそも殆どの従業員がパソコンを使い始めたし、紙でやりとりしている文書は逆にデジタル化されると困るような代物だったわけで、こうした入力業は瞬く間に業種として消えてしまった。しかし、まだワープロはマシである。ワープロよりもさらに短期間で消え去った職種として電算写植オペレータというのはあったが、これはもともと写植のスキルがないとだめだったので、元から写植工がシフトしただけだから、そうした人々はすぐに DTP へと移行したのであった。同様に、和文タイプライターのオペレータも、その機械ごと消え去った感があるが、こちらはもっと古くからある。したがって、それまでのスキルを活かせない新しい職種や業種なのに、わずかな期間で消え去ったのは、ワープロの専用機と入力業なのである。

で、そういう昔話はともかくとして、いまでも OASYS で採用された「NICOLA 配列」(もしくは「親指シフト配列」)というのは、一部ではキーボードやワープロ・ソフトが継続しているので、健在と言えば健在だと言える。しかし、僕は OASYS のプロのオペレータでもあったわけだが、わざわざ NICOLA 配列のキーボードを購入したり、いまの業務マシンにエミュレーションのソフトを入れようとは思っていない。

まず、専用のキーボードは非常に高価であり、今後も安定して生産されるとは期待できない。ベータ vs. VHS という事例でも知られているように、機能として優れているものが残るとは限らないのが人の価値判断であり経済や政治というものなのである。我々は、最も優れた業績や機能だと思って大勢が絶賛している何かであっても、それはたかだか理想的な条件からすれば不合理と言えるほどの妥協の産物であるという可能性を常に考えておかなくてはいけない。何度も当サイトでは書いていることだが、何の評価や判断であろうと、常にいろいろな事情での歪みはあるし、評価する人間が、たとえハーヴァードの名誉教授やノベール賞を受けた者であろうと、しょせんは有限な能力しかない凡庸な生物であればなおさらである。そして、われわれ自身が有限だからというだけではなく、理想的な条件を満たすべきだと求めることが多くの人々にとって不当であったり非効率であったり不合理である場合もありうる。会社で NICOLA 配列のキーボードを購入して、文書を作成する効率が2倍になったとしよう。しかし、こう言っては身も蓋もないが、文書作成ごときの効率が2倍に上がったていどで、会社の営業利益が2倍になるのだろうか。仮に、文書を作成すること自体が職業であるような作家についてであっても、NICOLA 配列のキーボードを使っていようと無能な作家は無能なのだ。文学的才能とは文書をつくる速さのことではないなどということくらい、小学生でも知っている。

ということで、もちろん僕は日本語の文書を入力する効率だけで言えば NICOLA 配列が最も優れていると思うし、親指シフトのキータッチはいまでも「エア入力」くらいはできる。しかし、残念ながら僕は哲学者であるからして、そんなことは物事の本質でもなんでもないとしか言いようがない。いくら自分がこういうところでも有能な人間だからといって、そんなことに頼っていても哲学の研究には効用がないのである。

それはそうと、上記の記事ではキーを一つ叩くだけで IME の ON/OFF ができることを望んではいるようだが、そんなことが当たり前になるかどうかは分かったものではない。僕は新しくマシンを買うと「Shift + Space」の組み合わせを全てのコンテクスト(「変換中」などのステータスのこと)で IME の ON/OFF に割り当てるようにしていて、これを15年くらいは続けている。もちろん、記事で指摘されているように、IME の ON/OFF が分かり辛いのは事実だが、IME の状態を表示してくれるソフトウェアを使っているので、さほど苦にも思わない。そもそも、僕からすれば「無変換キー」など触ったこともないので、こんなキーを必要とする配列に依存したことを言われても困るのである(ノートパソコンからデスクトップに買い替えて以降、ずっと英語配列の Happy Hacking Keyboard を使っているので、僕は Windows ユーザではあるが「無変換キー」とか Windows キーというものをタイプしたことがない)。

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