2018年09月26日に初出の投稿

Last modified: 2018-09-26

ウェブデザイナーというのは、これまで何度か書いてきたように、第一義としては商業デザイナーやプロダクト・デザイナーであって、芸術家ではない。クライアントの与件を尊重し、一定の工数を使って所定の水準で成果を上げるよう求められる。そして、しばしば誤解されることだが、「芸術家ではない」と言っているのは、自分の好みでデザインするなという意味ではない。自分の嗜好だけに従ってビジュアル要素を配置したり考案するのは、端的に言ってプロダクト・デザイナーでも芸術家でもなく、素人である。芸術家は、自分自身の内なる要求を本当に表しているのかどうかも分からない刹那的で短絡的な好みではなく、しかるべき年月をかけてこれと信ずる方針に従うのであり、Photoshop のフィルターをごちゃごちゃといじくり回して思いつくようなことに従うのではない。本人の趣味や好みなど与件の前では「クソ」であり、どれほど和風なテイストやシックな色合いが好きであろうと、与件や美の前では個人の好みなど問題外である。

ただし、このような方針や擬制には一定の制約がある。もちろん与件が違法だったり道義に反する場合にどうするかという問題が起きるからだ。「女性が子供を産まないのは自然に反するということを表現して欲しい」と、大企業の企画部社員から言われた場合、いまどき広告代理店であろうと「ちょっと待て」くらいのことは言うだろう。あるいは「炎上商法」などという言葉をどこかのセミナーや二束三文の雑誌記事から覚えてきたバカが、「特定の病気の患者を差別するようなニュアンスの表現を使って、***のライターに『こういう広告を見たのだが』と発見してもらう記事を書いて Twitter で広めてほしい。どのみち病気にかかっていない大多数の人間は、表面的な正義感を振り回す文句を Twitter で書くだけだから、売上には影響しない」などと言い出したらどうか。ふつう、電博レベルでなくとも大手の広告代理店で炎上商法を正式な手法として使う人はいないだろう。つまり、受託する方も自由な市場における事業者なのであるから、反社会的な与件や違法な与件を掲げた仕事をする義務は無い。

他社のビジネスが失敗しようと、基本的には知ったことではないし、違法な与件の仕事を受託しなかったからといって、自社の事業継続が危うくなるような取引関係に依存する経営は愚かであり、そのような経営者(と会社)は、そもそも市場から「無能」として取り除かれなければならない。それゆえに、とりわけ自社のビジネスについては社内の無能を徹底して取り除かなくてはいけない。これは、単に無能な従業員をクビにして有能な人物を採用するということだけを言っているのではなく、愚かな発想や猿知恵の思いつきで事業を始めたり変更したり止めたりするのを、社内にいる人間だからこそ阻止しなくてはいけないという意味だ。特に、どのような会社でも、経営者、営業、マーケティング、ディレクターという職能の人々は、そういう職能についているというだけでビジネスやサービスを「発案」したり「設計」したり「開発」できると思い込んでいる。この愚かな思い込みこそ、大多数のベンチャー企業を即座に数ヵ月後には破産に追い込む決定的な原因なのである。実は、この手の人々はミクロ経済学の素養もなければ商品開発の基本的な知識があるわけでもなく、営業とかマーケティングと言っても殆どは対面販売の経験など数年しかない、ビジネスの素人集団だ。

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