2019年03月12日に初出の投稿

Last modified: 2019-03-12

印鑑が厳密な意味で本人確認にならないことは誰もが認識しているはずですが、あくまでも本人が押すという大前提を社会で共有しているからこそ印鑑の正当性が成立しています。ある種、踏み越えてはいけない領域に業界団体が言及してしまったことに多くの人が驚愕しているわけです。

[...] 印の見直しが実施された場合における「印章業界が被る被害に対する国の売上補償」という内容が含まれています。つまり印鑑が使われなくなった場合には、金銭的な対価が欲しいというものです。

「押印制度見直し」法案、印鑑業界の要望で一部見送りに 驚くべき要望内容とは?

「技術の進歩で消滅していった職業すべてに補償していては、国の予算はいくらあっても足りません」と指摘されている。では、そもそもどういう職業に従事する人なら税金で生活保障するべきなんだろうか。文楽の人形を作る職人は? 社会学者は? アイドル歌手は? 新聞社の社員は? 自衛隊員は? 内閣総理大臣は? 三権をはじめとする公的機関なり公共サービスとして認められている事業に従事する職員でも、要不要はある。自衛官や警察官や消防署員は、職業としては必要だろう。しかし、制服組だろうとキャリア組だろうと現在の人数が必要かと言えば自明ではない。他方、職業としてすら不要な公共団体の職員もたくさんいる。官僚の天下りや地方自治体関係者の受け皿として作った、夥しい数の外郭団体などは 1/10 に減っても(適正な)行政活動に何の支障もないと思う。そもそも、そういう数々の外郭団体に働きもしない役員や理事として勤めている連中は、現役の元部下や政治家、業界関係者、地方の有力者、あるいはあからさまにヤクザとかにつながっていて利害関係を調整したり継続するための橋渡し役にすぎないので、現役の行政官が適正かつ適法なプロセスで物事を調べたり考えたり決めるという当たり前の仕事を厭わないなら不要である。

しかし、凡人にそんなことを要求するのは難しいというのが、古来から社会科学者たちが取り組んできた「真の問題」なのである(人権とは何かとか、その手の概念のエンジニアリングなど社会科学にとって本当に解決するべき問題などではない)。基本的に凡人どうしの互助組織にすぎない国家という集団においては、建前としてどれほど理想を並べていようと、現実にはそれぞれの利害関係者の部分的な集団にとって都合がいい理想を語っているにすぎず、理想論というものはだいたいにおいて論敵に対する牽制として投げつけるボールなのである。したがって、印鑑の業界が所得補償を国家に求めるのは馬鹿げているとしても、特定の職業に従事し続けるために蓄積した知識や技能を捨てて(あるいは活用しなおせる道を見つけて)他の職業へ替わるための移行期間は必要だろう。その間のサポートはした方がいいと僕は思う。そういうサポートしないで放り出しているからこそ、たとえばヤクザから足を洗っても生活が苦しくて再び罪を犯す人がいたり、出所しても IT 業界にぶら下がり続けてあぶく銭を集めるしか能が無くなる元ライブドアの社長とかがいたりするわけだ。

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