歩行と通行を考える

2008-12-30 23:43 / Uncategorized

これまで何度か書いてきた「歩行」の話は、「歩行・通行論(pedestrics)」という呼び方にしました。今回は引き続き歩行のお話ですが、歩行・通行論では、もともと加えたかった自転車の通行についても取り上げます。

まず、”pedestrics” という造語を選んだ理由は次のようになります。人や車両の行き交いについては、従来から「交通学(traffic economics)」という専門分野があります。しかし、”traffic” という言葉から受ける、マクロな視点だとか効率という意味合いは、自転車の安全な通行方法や技術を調べたり、あるいは路上を行き交うにあたっての道徳観念を分析するという志向には合致していません。もちろん、この対比は数理的な分析と感覚的な論評の対比ではありませんし、マクロとミクロの対比も当たっていないように思われます。まだ実体も体系もないので、「~学」といった大袈裟な言い方をしないで、単に「歩行と通行を考えること」だという見当をつけていただければよいでしょう。ちなみに、”pedestrics” の語原は “pedestrian”(歩行者)という言葉があるように、ラテン語の “pedes” で「歩行者」を表しています。また “pedi-” という接頭辞で「足の」という意味があるので、まずは「歩行」を大きなテーマにしているのですが、ゆくゆくは自転車や乳母車あるいは車椅子も含めた「通行」にまで広げてゆくでしょう。

で、どういった話題を取り上げるのかが分からないと困ると思うので、今回は一つだけ簡単に論評してみたいと思います。では、まず次の引用から始めてみましょう。

第十条 (1) 歩行者は、歩道又は歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯(次項及び次条において「歩道等」という。)と車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄って通行しなければならない。ただし、道路の右側端を通行することが危険であるときその他やむを得ないときは、道路の左側端に寄って通行することができる。

以上は、皆さんも名前は聞いたことがあると思いますが、「道路交通法」という法律の条文です。簡潔に言い換えると、「歩くなら道の右側にしろ」という意味です。しかし、ここでは「歩道等」と呼ばれている文言の意味に注意しなくてはなりません。なぜなら、日本では車や列車などは左側を走っているので、車と同じ方向に右側通行している人は、後ろから走ってきた車が事故を起こして歩道に突っ込んできても避けられないという意味になってしまいます。そして、それは誤りです。ただ、歩行者が(路側帯や歩道があろうとなかろうと)どういう道筋をたどるべきなのかは明確に決まっているわけではありませんし、実際に歩行者はたいていあからさまな車道を除けば好きなところを歩いています。すると、路側帯や歩道があればどう歩くべきなのか、上記の文言からは「じゃあ路側帯や歩道を歩くときも右側通行なのか?」と思ってしまいかねません。そこで、次の図を見て下さい。

多くの方が行き来している「道路」のイメージです。もちろん、上記に引用した道路交通法で言う「路側帯」や歩道がある大きな道なので、ここを右側通行しろというわけではありません。では、どのように歩けばよいのかと言うと、現状の歩行者を見ればお分かりのように、誰も確たる信念があって道を歩いているわけでもないと言えるでしょう。

日本では、車両は車道を「左側通行」します。これは既にご存知ですね。

さて、「歩道を右側通行する」という言葉を (3) の図のように理解すると・・・

事故を起こした車両が突っ込んでくると、車道側にいて、しかも突っ込む車に背を向けている人の方がきわめて危険と言えます。当然と言えば当然なのですが、右側を歩くとは「歩道の右側通行」という意味ではありませんし、そもそも歩道がある場合に歩行者が右側通行すべきか左側通行すべきかを明確に定めているわけではありません。

しかるに、このような法律が50年近くも放置される筈はないので、路側帯や歩道がある場合に右側通行などすればおかしくなるのは明らかで、(3) の解釈がおかしいということになります(まぁ、往々にして馬鹿な法律が100年以上も放置されていることだってありますが)。

道路交通法にいう「右側」とは、上の図では歩道と車道を含む「道路」の右の方という意味になります。中央分離帯から見て、最も右と言ってもよいでしょう。なぜなら、中央分離帯のすぐ右は車が走っているからです。そもそも、車両と歩行者が正しく対面して通行する方が安全であるという考え方、つまり「対面交通」という概念があるので、後ろから車が迫ってくるような側に人を歩かせるような愚策などありません。

ところが、上記のようにみんなが歩いているかと言うと、ぜんぜんそんなことはありません。歩道では、よほど細くて「歩道」と言って良いかどうか迷うほどの道でもないかぎり、人と人では左側通行をすることが多いと言えるでしょう。その感覚があるからこそ、上記のような図では車道を挟んで向こう側の歩道を無視してしまうわけです。すると、自分たちが歩いている道の上でどちら側を歩くかについて、後ろから突っ込んでくる車が怖いとなれば、向こう側を無視した自分たちの側の道だけで考える限り、歩道では左側を歩くものだと考えてしまっても仕方がないと思います。

2 個のコメント

  1. fukachi says:

    『歩道又は歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯(次項及び次条において「歩道等」という。)と車道の区別のない道路においては、』という但し書きにあるのような道路には殆ど馴染みの無い都会の人には、わかりづらいかもしれませんね。

    田舎育ちの私は、学校で「車は左、人は右」と教えられ、道路の右側を歩くことに、違和感がありませんでした。なにしろ車道と歩道の区別があって自動車の対面交通が楽にできるような道路のほうが少ないようなところでしたから(現在は様変わりしていますが)。
    都市部の場合は、例えば住宅密集地の私道や路地みたいなところに車が進入してくるようなケースを思い浮かべていただくと分かり易いのかなと思います。

    ところで、車道と歩道の区別がある道路については、歩行者についてどのような記載があるのか、ないのか、そこが気になるところです。この記事の流れからすると、特に記載が無いのかしら?

    昨今の道路事情では当然かと思いますが、多くの人は、道路と聞くと真っ先に「3」のようなイメージが浮かぶ、ということに改めて気付かされたのが、逆に新鮮でした。面白いです。

  2. philsci says:

    コメントありがとうございます。
    もちろん、歩行者も道路を通行する以上は道路交通法の適用を受けます。路側帯がなければ右を歩けとか、あるいは路側帯があろうとなかろうと道路の区別に拠らず、そもそも酔って歩くなとか(笑、信号を守れとか、色々。ただ、警察の実務という点からして歩行者の違法行為を取り締まったりモニタリングすることは不可能と言えますし、加えて多くの歩行者自身が道路交通法を強く意識してはいないので、交通弱者とは言えども困った人はどこにでもいます。pedestrics カテゴリーの記事では、単に「良い子は交通ルールを守りましょう」と言うだけでなく(これも、もちろん言います)、もうちょっと違った角度から歩行や通行を考えてみたいと思っています。

コメントがあればどうぞ

monthly archives

yearly archives

archive

microformat (vCard)

KAWAMOTO Takayuki

Mr. KAWAMOTO Takayuki
also known as philsci
(birth day: Sep 20 1968)
live in Osaka city, Osaka, Japan.

promotions

accounts

others