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「失礼なことを言うもんじゃない」
最近ではどこの掲示板だったか、あるいはブログのコメントだったか、僕も MD で取り上げた、論文博士が取りにくくなるという話題について話していた人が、この「失礼ですよ」というロゴロジーの餌食になっていたように記憶している。もちろん殆どの発言者は、「失礼ですよ」という発言でロゴロジーのゲーム盤に自分が布陣を敷いたという自覚はない。ついでに説明しておくと、「ロゴロジー(logology)」は言葉の学問という読んで字の如しな名前だが、回文など言葉と数字の関係を研究する分野とか、あるいは言葉と信仰や言葉と神の関係を研究する分野として説明されたりしている。言葉の神秘を探求するという大雑把な意味で解釈すれば、言葉によって我々が他人との関係をどのように(意図しようとしまいと)つくっているかという、「ことばの力学(パワーゲーム)」という意味合いになるだろう。
僕の記憶では、課程博士を多く排出しようとしている昨今の臨教審について、誰かが「粗製濫造」だと評したのであった。その発言をとって誰かが、自分が粗製濫造された博士取得者だからなのかどうかはともかく、その発言は「失礼だ」と非難したわけである。もちろん、こういう道徳的に非難されるべきことをしたかのように相手をラベリングすると、たいていの相手は「失言だった」と言うことになる。なぜなら、「ひとくちに○○と言っても、それぞれ事情が異なるのだから」という、新聞の投書欄に飾っておきたいような正論をぶちまけられると、誰も反論できなくなるからだ。
確かに、こういう言葉の力学が成立してしまうからには、「課程博士を取得した者」という表現で意図している対象が何であるかを、お互いに述べる必要があろう。「粗製濫造」と書いた人は、課程博士を取得したひとたちが「本当は博士号に値しない」と述べているわけではないだろう。なぜなら、これからの教育制度について臨教審が打ち出した方針をめぐって、彼らは話しているからだ。それゆえ単に揚げ足を取って「失礼ですよ」と発言するだけでは、草の根左翼のエキセントリックなジイさんとか、小学6年くらいの学級委員と同じレベルでゲームをしているに過ぎない。どちらも、それが「ことばのパワーゲーム」で一手を指したことになるのだ、という自覚がないからだ。しかも、たいていの話者が反論できなくなるような正論をぶちまけていることに気が付いていないので、「失礼なことを言うもんじゃない」という発言は、本人が議論を止めたいのか、あるいは相手を赤面させたいのかも自覚がないという、非常に困った一手なのである。
では、「失礼なことを言うもんじゃない」という非難がどうしようもなく退屈なゲームの一手であると認めた上で、これをどのように受けたらよいだろうか。一つは、「僕の知っている限りでは、課程博士を取得した連中はこうこう…」という、個人の経験に拡散させるやり方だろう。相手も全ての課程博士取得者を知っているわけではないから、「失礼だ」と非難した当の本人が、自分の限られた経験に照らして(具体的には友人とか知人)その人達を弁護しているにすぎないという、見た目にはかなり拮抗した位置にまで戦局を進められる。ここで、「失礼だ」と非難した方が、「そういう発言は『まじめにやっている人たち』に対して失礼ではないか」という表現に戦線を押し戻すことはできる。これもかなり強い一手だ。しかしここまでくると、いったい何を非難したり弁護しているのか不明確になるという、代償を払わなくてはならない。なぜなら、課程博士であれ論文博士であれ、学位というものは「まじめにやった人へのご褒美」でも何でもないからだ。事実、そんな個人のモチベーションや姿勢などはどうでもよい。
このように、口にされたらなかなか反論できなくなるような表現というものがある。そして、先の事例に則して言うと、臨教審のプランは博士号の粗製濫造につながるのか、だいたい学位を粗製濫造することはなぜいけないのか(かっこよくて取りたいだけの連中とか、親孝行のためにだけ取りたいっていう人にはやればいーじゃん、という意見があってもよい)、「粗製濫造」という表現がどこかの誰かに失礼なら、どう言い換えれば適切なのか・・・こういった話題は、たいてい「失礼」の一言で吹き飛んでしまう。「失礼」といったキーワードで、議論がゆるい道徳の話になってしまい、ふつうそこを誰もが避けようとするから先には進まなくなるという具合だ。発言した当人ですら意図しないほど、議論が当たり障りのない地平に落ち込んでしまうと、ひどい場合には日教組顔負けの「みんなそれぞれ輝く未来と才能があるんだ、ゆこうゆこう、僕らの俗流民主主義(実は平等思想と民主主義は関係がない)」といった話になってしまう・・・かも。
書いた人:philsci
カテゴリ:old issues
日付 2005-07-08 01:21
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