『構造化するウェブ – ウェブの理想型を実現する技術とは』

2010-01-03 23:49 / books and reviews

岡嶋裕史/著、講談社ブルーバックス、2007

Book Cover from Amazon

「Web 2.0」を「セマンティック・ウェブ」への過渡期として位置づけ、現行のサービスや技術を大局では妥協の産物として捉える。表題の答えとしては、SOAP, WSDL, UDDI をはじめとする「ウェブサービス」の基礎技術ということになるのだろう。昨今では、「Web 3.0」のスローガンを肉付けする一つのキーワードとして「セマンティック・ウェブ」を挙げることが珍しくなくなったけれども、見取り図の一つとして、現在も一読の価値はあると思う。

ただし、どのようになろうとウェブや IT 技術は商品という側面をもつので、消費者の行動や行動のベースとなる嗜好から懸け離れたところで論じているような点は、ひとまず区切っておきたい。例えば、Windows の新しいバージョンが登場した時点で高スペックが要求されていても、数年経てば消費者が高スペックなマシンに乗り換えるから問題ないなどと、殆ど根拠のない素人ミクロ経済を語っている(事実、マイクロソフトが最も苦心しているのは、多くのコンシューマは新しい OS が発売されたくらいでマシンを買い替えたりはしないし、そもそも OS だって簡単に乗り換えたりしないということなのだ)。このような点から説き起こされても、結論が穏当な内容だったとして、誰も納得はしないだろう。

また、IT「技術」と距離を置いているかの論調も見受けられるが、しょせん IT「産業」とは距離を置いていないように窺えるので、論点の多くをスキップしていると強調しておいてよいだろう。もちろん本書は経済や思想をテーマにしているわけではないから、スキップしたこと自体を責めるのは酷である。読み手が補足したり、各自で論点を展開していくべきだろう。

例えば、良し悪しは別として、本書に登場する或る論調を単純にまとめたら次のようになる。ウェブサービスはマーケターが口にするほど簡単に稼げるような技術プラットフォームを提供するわけではなく、実際にアマゾンのモデルを描いた「ロングテール」は、凡庸な中小企業あるいは何の取り柄もない凡人アフィリエイターが猿真似で後を追えるようなビジネスモデルではない。そして、そのようなモデルで展開されるのは、ウェブサービスを最大限に利用する、洗練された自動化(業務のシーケンスまたは系に人間の判断が介在しない)であり、徹底的なコストカットである。

つまり、簡単に言えば「Web 2.0」などとわめいて後追いビジネスしか考えていない、ウェブ制作プロダクションや IT ベンチャーやオープン系開発会社が、真っ先に「自動化」や「コストカット」の餌食となる。例えば、XHTML + CSS + JavaScript のコーディングが自動化されたら、ウェブ制作の業務に関わっている人間の数%ほどは完全に失業するだろう。PHP, Ruby, Python, Perl と、それらが連携する DBMS のコーディングも、何らかのアンケートフォームにディレクターが答えるだけで雛形を生成するか、既存の API と連携して機能要求を実現してくれるクラウドサービスが出てくれば、IT 系企業に勤めるコーダーやプログラマの更に多くも完全に失業する。そして、景気が良くなっても失業率は絶対に回復しない。

実際、これは冗談の話ではない。現に .psd ファイルから自動でスライスした画像を Web 標準のスタイルシート・ルールで整形したコードとして吐き出す、なんていう機能を開発している企業は、世界中に幾らでもある(残念だが、ウェブの企業に .ai ファイルで DIC の番号を付けたデザインカンプを渡すようなデザイナーは、その頃には死滅しているだろう、というかそう期待したい)。当然、Adobe や Microsoft のようなウェブページ制作ツールを提供している大手も、そのような機能を開発しているだろう。いまは非常に程度の低いレベルではあるが、既存のウェブページ編集ツールの「スライス書き出し」機能は、5年先の「コーダー(あるいは何とかエンジニアでも何でもよい)潰し」になるはずである。つまり、(礼賛しているかどうかは微妙だが)本書で描かれている「自動化」の将来像を、JIPDEC や大学の研究室から離れて眺めてみると、そこには大量の失業という現実があるだけで、「有能なデザイナーや開発者、あるいはきちんとした企業だけが生き残るであろう」などという、楽観的と言うよりもナイーブと言う方がよいくらいの描写ではどうしようもない事態が起きているはずだ。

しかるに、「ウェブサービス」なり「セマンティック・ウェブ」なりを正確に理解して活用できなければ、今後の競争に打ち勝てないであろうというフレーズは、一見すると3流の経営コンサルタントと同レベルの結論に思えるが、実は反語というか、或る種の絶望的な宣言であるようにも受け取れる。そもそも SOAP など導入して事業や業務フローを変革して効果の見込める会社なら、従業員や決裁権者がこんな薄手の新書など読まずとも、既にアクセンチュアや NRI といったコンサルタントが会議室を幾つか埋めてしまうくらいの仕様書を提出しているはずだからだ。

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KAWAMOTO Takayuki

Mr. KAWAMOTO Takayuki
also known as philsci
(birth day: Sep 20 1968)
live in Osaka city, Osaka, Japan.

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