ウェブ業界はどこを向いているのか・その1

2008-05-05 21:28 / design, scribbles

少し前の話題ですが、彼女が「はてなダイアリー」の公開デザイン祭入選したそうな。おめでとーさん。その記念に、というか今回は先日から何度か書いてきたウェブ業界を、何回かに分けてもう少し詳しく検討したいのです。文句を言うだけなら幾らでもできるわけですが、そこからどうすればよいか提案してみようと思いました。もちろん実効性があるかどうかはご自身の働いている状況に沿ってご検討ください。

最初に注意書きを一つ。下記の本文でも「ウェブ制作・構築業界」という言い方をしていますが、僕としては、いわゆるウェブデザインや FLASH 制作などの「ウェブ制作」だけでは、ネットワークの取り回しやサーバのセットアップあるいはプログラミングも含めた「ウェブ構築」の業務をカバーし切れていないし、「ウェブ制作・構築」という言葉遣いだけでも、運用系の業務や事業立案の業務を無視した「作って終わり(というか、そのスキルしかない)」、「ビジュアルデザインして終わり(というか、そのスキルしかない)」というヘタレ業者を量産している一因にもなっていると思うのです。したがって、海外で「ウェブ制作」と「ウェブ構築」の両方を含む “web development” という表現も適切ではないと考えます。もちろん、それらの業務を一つの企業がワンストップで受託できなければならないとは思いませんし、そんなプロダクションは現に殆ど存在しないわけですが、ともかく全ての業務内容をおおむね取りこぼし無く表現する語句がないので、「ウェブ業界」という、分かったような分からないような言い方もしています。

では、これまで何度か書いてきたことですが、改めて説明します。ウェブ業界はたかだか十数年足らずの未成熟な業界で*1、様々な他業種で働いてきた人たちの受け皿となってきました。しかし誰もが目にする「デザイン」や「システム」という言葉に惑わされてはいけません。ウェブ「デザイン」の仕事だからといって、DTPの業界にいた人が「出身業界の経験を活かして」明日にでもウェブデザインを始められるかと言えば、全くそうではありません。FTPでファイルをアップロードすらできず、自分でサイトやブログすら運営したこともない人たちが他人様のウェブサイトなどまともに設計したり運用できるわけがありませんし、あるいは商売(当然、経理や法務などの実務を含みます)をやったこともない人たちが、他人様のエンタープライズシステムを設計したり運用できるはずがありません。また、ネットワーク上でのデータ通信についてセキュリティという観点からプログラムできない人が、どれほど Visual Basic や C 言語を知っていようとも、明日からウェブ構築の現場でシステムを設計できるかと言えば大きな困難を伴うでしょう。そして、口先だけの分析や強引な説得あるいはバカのフリといったヒューマンスキル(と言うよりも属人的な単なる人柄であって「スキル」の名に値しませんが)だけでディレクションや営業をしてきた人が、いきなりウェブ業界で仕事をこなせるかと言えば、これもまた知らぬところで他人に迷惑をかけるだけのことでしかありません。

*1 もちろん世界初のウェブデザイナーは Tim Berners-Lee ですが、1993年のMosaicリリース、あるいは1994年のW3C設立ときて、1998年頃から始まったホームページ開設ブームあるいはドットコム・バブルを起点とすれば、この業界はせいぜい10年といったところでしょう。どこの会社が世界初のウェブ制作プロダクションなのか確たる資料を持っていませんが、一説には Nexus (元 WorldWideWeb ブラウザ)の開発メンバーだった Jean-Francois Groff が1993年に立ち上げた InfoDesign が世界初のウェブデザイン企業だと言われています(現在 Groff さんは InfoDesign には在籍していません)。ただ、日本でもキノトロープさんは1993年からサイトの制作をされていたので、もっと早くから始めていた会社があったのかもしれません。いずれにせよ、仮に1993年から数えても15年足らずの業界です。

しかし残念なことに、現在のウェブ業界には、個人的な観察から言って無視しかねるほどこういう人たちがいます。居座っていると言ってもよいでしょう(もちろん限られた観察ではありますが、数人規模の制作会社からフリーランス、あるいは汐留あたりの広告代理店さんの案件を抱えるいまの会社まで、ひととおりの範囲は見聞しているつもりです)。そうして、彼ら彼女らの中には5年や6年も口先だけのコンサルティングやビジュアルだけの制作テクニック、あるいは動きさえすればよいといった志の低いプログラミングで食いつないでいる人たちがいて、既得権益を必死に守ろうと色々なたわごとを口にします。こうした人たちは既にそれなりの職位を得ていたり、騙し騙しなんとか販路を確保していたり、適当に覚えた業界用語を知っているため、専門学校の学生さんや他の業種でウェブ業界への転身を考えている人たちからはウェブ業界人の典型と見做されがちですが、あまり信用してはいけません。そろそろ顧客側にもコンピュータやウェブを小学生や中学生の頃から使ってきたような人も増え始めています。このままでは、気づいたらウェブサイトのまともな構築技術や運用経験がないのは、制作・構築側の経営者や管理職だけという情けない事態になりかねません*2

*2 もちろん、経営者の仕事はその名のとおり持続性・成長性・適法性を満たす経営であって、制作技術の端々を知っている必要などありませんし、仕様の動向を日々追いかける必要もありません。しかし発注側や一般ユーザよりもリテラシーやスキルが劣っている場合には、とりわけ企業の成長性を左右する経営判断は正しく行えない可能性が高くなります(仮に社内の技術者の意見を参考にするとしても、自分で検証できもしないビジネスモデルを採用するのはリスクが高くなります)。もちろん、成長性を諦めて持続性(とちょっぴりの適法性)だけを維持するのが目標であれば、請負案件だけで食べてゆく制作会社を経営することは可能でしょう。とは言え、そういう会社の経営者に限って「うちはこれだけの顧客から支持されている」と誤解してしまい、発注スキルの低い顧客企業と受託スキルの低い請負企業どうしでグルグル仲良しクラブを続けてしまう場合があるでしょう。どのような業界にもこういう「異臭を放つ成功事例」というものはたくさんあります。

Generations of developers, employers, and users

上記の図で示したのは、グレーの年齢層に属している人たちは、ネットやパソコンが普及し始めた時期にはデザイナーや起業家として第一線で活動していた人たちであり、いち早く利用を初めて技術を吸収していった人や起業した人もいると思います。僕は、この年齢層についてはあまり心配していません。また、青の年齢層に属している人たちは、ドットコム・バブルの2001年前後にパソコンやネットを使い始めた中学生~大学生であり、現在は一部の人たちが就職して発注側のメンバーにも加わっている筈です。そして他業種からの転職者が多く、いまウェブ制作プロダクションや開発会社で、ディレクターやプロマネあるいは経営者となっている人たちが、緑の年齢層と言ってよいでしょう。

こう見てみると、現時点で30~40歳くらいの人たちが最も危険だという結論になるでしょう。どういうことかと言うと、ここの年齢層にいる人々はネット普及期や(第2次)パソコン流行期には高校生~新社会人だった筈で、ネットバブルの頃までは元の業種で働いていた筈です。そしてネットバブル後に他業種から転職したり起業した可能性が高い(2001~2006年に転職してきた人ということになります)。するとIT企業に転職した後あるいはスタートアップした後で、3年ていどの実務経験しかもたずに、制作から離れてしまっている可能性があるのです。つまりテーブルレイアウトのスキルしかもたずに IA やアートディレクターをやっていたり、XSS やインジェクション攻撃も知らずにアーキテクトやプロマネをやっている可能性があるわけです。無論、ここの年齢層にいる人が全てそういう人だと言っているわけではありません。しかし、他の年齢層よりも比率は高いと考えられるので、青の年齢層が発注側の決裁権をもつようになってくれば、「ウェブサイトのまともな構築技術や運用経験がないのは、制作側の経営者や管理職だけ」となるでしょう。

しかしことは単純ではないかもしれません。なにせ、最近の中高生はパソコンよりもケータイを頻繁に利用しているため、逆に上の世代よりも制作スキルやリテラシーが低下している可能性もあります。すると、若い世代だからといってもパソコンやメールが正しく使いこなせると期待できる(蓋然的な)保証すらなく、PC用のウェブサイトを発注するにあたってウェブ戦略や要求定義を定めるスキルが全くない可能性もあります。あまりナイーブな世代論にはしたくありませんが、どうなるんでしょうね。

それから、緑の年齢層よりも更にスキルが低そうに見える、グレーの年齢層を心配していないと書いた訳は、この年齢層の人々は、もしスキル不足が明白な転職者であれば、よく自覚しているだろうと思うからです。その上でウェブの制作プロダクションや開発会社で勤務し続けられているのであれば、自分よりもスキルをもっている顧客と交渉したり打ち合わせを進める技量があるのですから、その年代で続けられているという事実こそが、その人達のポジションを保証していると言ってもよいかと思うのです。

確かに、多くの人が他業種で培った経験や反省をウェブ制作・構築の業界に応用したり反映させてみたいと試行錯誤することに、良いも悪いもありません。自分たちの単なる慣習を当然の常識であるかのように、外注先や顧客にまで押しつけない限りは、幾らでも試行錯誤すべき時期なのでしょう。何せ、まだ新卒で入社してから定年退職したウェブデザイナーやウェブ=オープン系のプログラマなど、世界のどこを探してもいないのですから。それほど新しい業界なのだという自覚から始めませんか、というのが僕の第一の提案です。断言してよければ、ウェブ業界は、制作技術とウェブ戦略にかんする素人が発注し、業務知識や事業運営の素人が受注している業界なのです

よく広告や印刷業界から来たひとたちが(なぜかこの業界の出身者だけがこういうことを言う)、自分の経験を活かしてウェブの仕事に取り組みたいと言います。しかし多くの場合は単に自分たちが慣れ親しんできた商慣行や仕事のスタイルを無邪気に押し通しているにすぎないので、傲慢であるか影響に無頓着な人々には「自分の経験を活かす? そんなことを勝手に決めないでいただきたい」と言わざるをえません。或る業種の常識は他業種での非常識とも言える場合があります。特に商慣行は法的にもキャッシュフローの観点からも会社に損害を与える可能性が高く、発注書や検収書が殆ど取り交わされない中小規模の広告業界で培われてきた脱法行為など、ウェブの業界で培ってもらっては困ります。数年でドロップアウトしようと燃え尽きようと過労で死のうと勝手ですが、他人を巻き込んでほしくありません。経営側にいた経験から言うと、一時的にはそうした「捨て駒クリエイター」は幾らでも勝手に徹夜するので便利ですが、結局そうした会社は長続きしません。それは、後から述べますが、外から見ている以上に、実はウェブ制作・構築業界は人材難だからです。

またヒューマンリソースという点に加えて、ウェブ制作・構築は新しくて色々な意味での蓄積が足りていない業界ですから、制作・構築の業務フローについてコンセンサスがなく、それゆえ法的な拘束力に訴えるのが難しいと言えます。建築業界のフローをシステム開発の会社が応用し、プログラム開発を「製造」と呼んだりすることはありますが、まだ単純な転用の域を出ていません。加えて、「工事基準」が開発の案件にも導入されるといったニュースは飛び交っていますが、このようなものを盾にして顧客の横暴から身を守れるのは、NRI・IBM・日立・NEC・NTT DATAなどの子会社である、いわゆる「ITゼネコン」だけでしょう。そして、殆どの制作プロダクションに当てはめてみれば非現実的だと分かるような業務フローを薦めるディレクター向けの著作物もありますが、現実とのギャップが大きすぎて、逆に多くの制作プロダクションからは「予算や工期や人材に余裕のある制作会社にしか通用しない理屈だ」とか、「上流工程だけで食べている物書きたちの空論だ」といった反感を買ったり、「そういうフローなどどうでもよく、顧客の満足を最大限に実現するサービスが我々の仕事だ」といった下請け根性丸出しの逆効果を引き起こす結果となっています*3

*3 「顧客の満足を最大限に実現する」という表現が「納品物の品質をできる限り上げる」という意味であれば、最も効果的な方法は、その案件に割り当てる要員を増やしたり、スキルの高い人材を派遣社員として投入したり、もっと品質の高い委託先へ外注することでしょう。しかし、困ったことに「サービス」を「低コスト」の意味だと誤解している経営者は、発注側にも受託側にも多く、請求金額を上げずに品質の向上を(もしかすると発注側が頼んでもいない水準まで)目指すこととなります。場合によっては、次の受注へ繋げるために「戦略的な価格提示」として逆に値下げする企業もあるでしょう(こんなものは「戦略」でもなんでもありませんが)。すると、そのような企業では、サイトの制作・開発において最も高いコストを占める費目、つまり要員一人当たりの人件費を下げざるを得ません。しかし、単純にそれまで2人で担当していた案件に社員2人分の費用がかかる派遣社員を追加投入したり、あるいは社内の要員を倍にしたりすると、元からいる2人の人件費を事実上カットするか、社員4人にした場合は等分して減給でもしないかぎり、予算オーバーは小学生にでも分かります。また外部の委託先に外注すると大抵は内製よりもコストがかかりますし、委託先をディレクションする工数までゼロにはできませんから、どのみち大幅な予算オーバーとなります。

そのようにしてしか販路を開拓したり維持できない制作プロダクションは、遅かれ早かれ次のような対策をとるしかなくなります。第一に、コストなしという意味でのサービスを実現するため、工数がかかっても人件費が膨張しない魔法を使います。それらは門外漢たちから「偽装請負」とか「裁量労働制」などと呼ばれていますが、正式な魔法学校を卒業した人たちは、「顧客のために何ができるか考えよう」とか「クリエーティブがどうたら」といった呪文を唱えて、それらの魔法を正しく使えるというわけです。ただし、こうした呪文を口走っていると2~3年ほどで転職病やフリーランサー病にかかったり、真面目な意味で過労死することがあります。またこれらの病気にかかっても、魔法学校では「ドロップアウト」や「負け組」あるいは「社会人としてどうなんだろうね」と罵られるだけで悲しんではくれません。なぜなら、せっかく裁量労働制を敷いているのに、そうした病気にかかるということは社会人として自己管理ができていないということになるからです。

第二の対策は、人件費が膨らんでも耐えられるだけの資金を調達することです。経営者個人の資産を拠出するといった希な事例もありますが、たいていのベンチャー起業家にそのような資産はないので、銀行・中企連・国金などから借金するか、あるいはリテラシーの低い自治体とか財団法人がベンチャー企業に訳も分からずばらまいている融資プランなどを利用します。株式会社の場合は、第三者割当増資でベンチャーキャピタルに株を買ってもらうという手もありますし、黒い紐のついた弁護士や経営コンサルタントあるいは他企業から莫大な増資を受けるといった荒技もあるでしょう。どのみち経営とは自分だけが清廉潔白でもうまく行かず、綺麗事で成し遂げられるものではありませんから、他人の思惑ををうまく操って資金を増やすしか生き残る道はありません。それはそれで資本主義社会の経営人としてはごく普通の行動だと思うのですが、それだけに奔走していても限界はかならずやってきます。

ここで、あまり現実的とは思えない業務フローとして一例を挙げると(現状で良いと言いたいわけではありません)、ユーザビリティとアクセシビリティのテスト工程を独立のフェーズとして設けるという(ディレクター向けの概説書によく見かけるようになった)提案があります。しかし、それだけのために請求費目を書けるような(顧客に対してあるていど優位の)制作プロダクションやコンサルタントでもない限り、社内や提携先の人的リソースを考慮しないで業務フローに落とすのは、たとえ目標としてであっても危険と言えます。現状では、納品レベルの品質検査をたまたま個人的な興味の範囲でできる人は、多くの場合にサービス、つまり「無料」あるいは「献身」という日本的な意味でのサービスとしてアドホックにやっているにすぎず、しかもシャドウワーク化していると思われます。営業マンのご託としてユーザビリティやアクセシビリティを語るのは好きずきですが、実際のところユーザビリティやアクセシビリティの内部評価(テスティング)や第三者試験(フィードバック)を適正に行える制作プロダクションなど、日本に10社もないと言って良いでしょう。制作会社の仲間内で使いやすいのどうのと、思いつきだけで深夜にお喋りすることを「テスト」と呼ぶなら話は別ですが。

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KAWAMOTO Takayuki

Mr. KAWAMOTO Takayuki
also known as philsci
(birth day: Sep 20 1968)
live in Osaka city, Osaka, Japan.

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