ウェブ制作業界にはびこる悪習
2008年04月02日 02:29
昨日に公開した対談形式の放言集みたいなものでも言及しましたが、さきほど彼女と話していてもう少しあるだろうと思ったので、追加してみます。
後から追加してゆくかもしれませんが、いま思いつくことを書いてみます。
第一、ページデザインをワイヤーフレームから起こす
できればウェブ展開の戦略からサイトの方向性という戦術に落とし込み、その上で各コンテンツの配置をサイトデザインとして与える。次に、今度は各コンテンツとしてのページ要素を IA の観点から論理構造として整理し、やっとワイヤーフレームが出てくる。正直、Photoshop や Illustrator でいきなりデザインするのはよくないなどと言っていても、おもむろにグリッドを切ったりワイヤーフレームから始めてしまえば、ビジュアルしか考えてない連中と五十歩百歩です。少しは弊社の情報アーキテクトを見習いたまへ、とか言ってみたり。
第二、ターゲットとなる業界知識を顧客だけから学ぶ
発注者はその業界でどれだけの見識や経験をもっているのかという視点を欠いていては、請負作業の段階でしか仕事ができません。正直なところ殆どの顧客(特に決裁権者でないただの担当者)は、その業界では橋にも棒にもかからないペーペーである可能性が高い。それだけ、まだウェブサイトの構築は発注者から舐められているのである、という自覚をもとう。ディレクターや営業さんに(口先だけでない)独自の業界知識が必要になると述べているのは、このような理由からでもあります。逆にそういうところを強みにしている制作プロダクションは(癒着というパターンもあるにはありますが)、得意とする業界で信頼を得るでしょう。
第三、フレームワークやハックの導入が最先端の技術である
違います。フレームワークやハックはことばの意味そのままの「ソリューション」であって、どうしようもなくなったときに利用する最後の手段です。もともと開発手法やコーディングに問題がなければ、導入しなくても済むものでしかありません。フレームワークに依存する開発会社や制作プロダクションは、それだけ社員のレベルにばらつきがあって設計(デザイン、アーキテクチャ、あるいは他の意味でも)に合理性がないからだと自覚しましょう。ハックはMDでも使っていますが、導入するのに躊躇しても良いバッドノウハウです。
第四、コンテンツの論理構造とプレゼンテーションを区別すれば自由にデザインできる
これも全く違います。特に先ほどのハックの話とかかわりますが、しばしばコーダーさんでも誤解しているのは、「論理構造」をコンテンツの (X)HTML マークアップについてしか考えていないということです。スタイルシートにも論理構造はあって、それの目的なり適応なりといったセマンティクスを設計しておかなければ不合理なプレゼンテーション設計となります。きれいに見えていて SEO 的にも有利なら問題ないという方は、特に重視しなくてもよいところでしょう。このような点にこだわると「よいこと」があるのかどうかは明言できませんが、その場限りの仕事で済ませたくないなら、考えを改める方が幸せかもしれません。スタイルシートのプロパティや値域を、自由なデザインのための道具として自由に解釈し使い回して良いとしか考えていないようなコーダは、XML+XSL(T) が普及したら通用しなくなります。専門学校や大学に通う学生諸君は、10年後のウェブを(存続するかどうかまで含めて)想像しない会社や代理店の言うことなど聞かなくてよろしい。そういう人たちは3年~5年もすればいなくなります。
第五、コンテンツとは即ちテキストデータのことである
これはもはや正しくありません。もちろん、より多くのユーザに同等のコンテンツを提供できる最善のフォーマットがテキストであることに変わりはありません。しかし、現在のウェブでは「コンテンツ」を、テキストとして伝達できる意味だけに制約することは不適当と言わざるをえません。ここまで読み進めてきた方にとって、僕が述べていることは単なる「W3C原理主義」と同じであるように見えるかもしれませんが、そうではありません。いまやウェブで表現されているコンテンツの多くは、WWW 発祥の頃とは異なり、論文や技術情報などではありません。極端に言えば、論理構造を示すことそのものがコンテンツの一つの解釈を押しつけることになりかねない場合もあります。したがって僕はコンテンツを重視すれば、それのマークアップが逆に一種の制約となったり、不合理なプレゼンテーションを要求しかねない可能性を残すかもしれないという可謬主義を採ることが望ましいと考えています。。W3Cの仕様に従うことは、コンテンツの「よい」伝達を保証する(ようなセマンティクスを帰結する)とは限りません。しかし、だからといって「第三」でも述べたようなハックにすぐさま逃避することを推奨したりはしません。
第六、ウェブ制作会社はサイトの運用もきちんとやれる
他でも書きましたが、顧客にはこういう大きな勘違いがずーーーーーーーーーーーーーっと見受けられます。
ウェブ制作会社、特にビジュアル・プレゼンテーションのことしか頭にないようなクリエーティブ偏重の会社には、ウェブサイトを運営するスキルは皆無です。冷静に考えれば分かると思いますが、たかだか数年ほどインターネットを道具として使ったり、Photoshop や JavaScript のスキルがあるというだけの人々が、なんで顧客対応や(事業としての)ウェブサイト運営というスキルをもてるんでしょうか。せめて接客のアルバイトなり他の業種で営業やヘルプデスクをしていたなら少しは分かりますが、高校→専門学校(または美大)→いきなりデザイナーなんていう経歴の人にできるわけがありませんし、実際にできないのです。ビジネスメールの書き方すら分からない人に、どうやってクレーム対応を任せられますか? また、企業クライアントにとってウェブサイトは一つの事業所です。経営や管理業務のスキルがない人に、ウェブサイトの運営など任せてはいけないのです。
しかるに、発注側も技術やビジュアル面での依存関係に引きずられて、サイトの運営まで依存してはなりません。そのような体質の会社の案件は必ず失敗します。入れ替わり立ち替わり、CMSで適当にサイトを組み上げる(または同等のコストで外注にやらせている)だけの「やっつけデザイン会社」など、どれだけすげ替えてビジュアルが変わっても、本質的に事業として成功はしません。経営管理の立場からも言わせてもらえれば、撤退する方が良策と言えます。
ビジュアルデザインは良いに越したことはない
これも、正確なことは言えませんがおおむね間違いと言ってよいでしょう。無論、ビジュアルデザインだけのウェブサイトなど、Web Design Index などに掲載されていようと屑同然です。また、ユーザビリティやアクセシビリティを加えるだけでは全くの不十分です。事業戦略に沿ったウェブサイトの構築・公開・運用・閉鎖というライフサイクルを或る程度の水準まで設定して、いわばプロダクトマネジメントのスキームに沿ってサイトを設計するという発想がなければ、ありていに言って決裁権者や担当者の思いつきや好みだけで屑のようなウェブサイトが量産されてしまいます。このような発想があれば、ビジュアルデザインに関するコンセプトはウェブサイトの最上位概念ではないという思考が、発注側や受注側に培われる筈です。例えば或るゲーム機器メーカーさんではウェブサイトのビジュアルデザインに厳格なレギュレーションを立てておられますが、これが制作会社にとっての最上位のルールではないということが分かれば、なぜそのようなルールが立てられいるのかを理解し、更に上位のレベルからものを考えられるようになるでしょう。すぐれたブランドを維持している企業は、かようにして様々な点を考慮した経営方針から、逆にビジュアルデザインのレギュレーションにまで一貫したコンセプトを維持しています。
そのようなコンセプトがなく、その場限りで綺麗なだけのデザインに固執してしまえば、あの Joshuaink のような結末を迎えることになります。いまではもう更新されていないあのブログが CSS デザインの見本であるかのようにもてはやされたのは2006年のことでした。しかし数ヶ月も経たないうちに運営者が興味を失ってしまい、なぜかわざわざデザインを地味なものに作り替えてしまったことを覚えている人は多いでしょう。どれだけ美しく作ろうと、紙媒体とは違って更新されることを前提に作られているウェブサイトでは、本人に運営する気がなくるといずれは廃屋になってしまいます。逆に、古びたデザインではあっても多くの人たちに利用されているサービス(昨年までの Yahoo! もその一つと言ってよいでしょう)は事業として安定しており、事業継続や成長という意味では成功と言えます。
