働くことの理想と現実

2009-01-05 00:00 / hittings

いまテレワーク関連のアンケートを集計・・・なんでシステム部がやってるのかはともかく(笑、そういう業務にも携わっております(恐らく回答用紙に個人情報が含まれるから、兼任している情報セキュリティ部門に発注しているつもりなんでしょう)。 さてアンケートの回答を見ていると、「ネットショップ」とか「アフィリエイト」とか「ドロップシッピング」を始めたらすぐにでも収入になると思っている人々は多いわけですが、事情を考えるとそんな風に期待してしまう気持ちは理解できるところがあります。

事情としてよくあるのは、やはり在宅で収入を得たいという方の多くが、子供や親の面倒を看ているおかーさんなわけで(ひとまずその良し悪しについては議論しません)、働いて収入は得たいが、さりとて子供を幼稚園に出したり親を老人ホームにやるのは家計の面で逆にたいへんとなれば、家にいて仕事をしたいと望むのは当然と言ってもよいでしょう。家の中にいるという選択肢しかなければ自動的にそこで働くのは在宅型のテレワークになるわけで、昔からそうした人たちはせっせと内職をやってきていたわけなのです。動機という点ではごく自然なものの考え方と言ってよい。

さて「テレワーク」という言葉には、たぶん大きく分けて二つの意味合いがあります。一つは、「在宅で稼ぐ」とか「自宅を事業所として商売する」という、いわゆる「在宅ワーク」の意味で、もう一つは「既に実績とスキルのある人が、地理的なハンディの少ないコミュニケーション手段を使って業務を行う」という意味です。そして、ウェブサイトの制作とかプログラムにおいて「テレワーク」と言う場合、一般の方々が考えるのとは違って、本来は後者の意味で「テレワーク」している人でなければ、生活していけるだけの金額はなかなか稼げません。よく「ネットで起業」などと言っている人の多くが夢描いているような、自分も自宅でパソコンをごちゃごちゃといじくっているだけで笠原さん(mixi)や三木谷さん(楽天)になれるんじゃないかとか、少なくとも食っていけるだろうという見込みは、おおよそ幻想と言ってよいわけです。

いま、「在宅で稼ぐ」と言いましたが、例えば「ホームページをつくって稼ぎたい」と考えている方々は、いったい何をやってどれくらい稼げると思っているのでしょうか。恐らく、こうした方々の何割かは、かつて 20 年ほど前にワープロ入力代行業が一時だけ流行った時代にも、A4 版 1,200 文字を一枚 200 円とかで入力していた人々だったのではないでしょうか。驚くかもしれませんが、僕はその当時、同じ文字数を入力して 2,000 円はもらっていました。父親が印刷会社の製版部長だったので、プロの入力業者の相場を知っていたからです(もちろん、プロの業者さんと同じ値段をとるだけのものは納品していたつもりです)。つまり、単に稼げたらよいと思って業界知識を得ずに、ブローカーのもってくる「作業」だけをこなしていても、かろうじて家計の足しにはなるかもしれませんが、それだけで食べてゆくのは非常に難しい。正当な対価が分からない人も多いのです。

もちろん、単に「素人は甘い」と言っていても、何も解決しません。かといって、業界全体のためには、食べるためにウェブページを1ページ 700 円で制作するような会社や個人は少なくなってほしいのも事実です。はっきり言って納品物のクォリティやかかっている工数や投じている資本を比較すると、企業人としては原価割れが明白と言えるような価格をオンラインで提示している会社やフリーランサーは、甚だ迷惑だと言わざるをえません。ただそうは言っても、零細企業向けなら1ページ 700 円でも適正と言えるクォリティはあるかもしれないので、そうした低料金で働いている人たちも、僕らのように企業としての制作プロダクションも、それなりにお互い納得の行く解決方法はないものかと願わずにはいられません。

そこで少し考えてみると、制作プロダクションの側には企業としての自己責任があります。つまり、素人が1ページ 700 円でやっつけるサイト制作とは桁が 2 つ違うと説得するだけの正当な根拠が必要です(というか制作プロダクションの場合は「1ページいくら」などという計算はしませんが)。そもそも会社にものを頼めば、企業としての仕分細目に応じたさまざまな経費を加算されて、フリーランサーに頼むよりも高額になるのは当たり前の話です。そうでなければ、会社の経理や総務や営業の人たちもウェブページをデザインしなければならなくなる。

在宅ワーカーの個人は、もともとが法人としては個人事業主という弱い立場なので、下請法のようなザル法(たいていの悪質なブローカー制作会社や代理店も、資本金が少ないために下請法の適用を逃れてしまいます)だけでなく、特にウェブ制作・構築という業務を明確な「業種」として公的な機関に認知させ、特別商法上の保護を受けるべき正当な制作フローと、それに応じた請求費目を確定させて、妥当な金額を請求できるようにするというのが望ましいと考えています。フリーランサーや在宅ワーカーにそうした方法で厳格かつ妥当なルールを適用すれば、それは企業どうしの受発注にも影響を与えるだろうと考えています。ただし、法の保護を受けるので、厳格かつ妥当なルールで保護すべき対象を確定しなくてはなりません。それゆえ、医者や弁護士のような排他的な資格とまではゆきませんが、おそらくデザイナーであれコーダであれ IT パスポートていどの資格は要求されるでしょうし、代理店業を営もうとする者には、管理部門を除いて経営者にも ISMS と PMP の認証・認定取得は必須としてよいと思います(これで、ただの口利き屋が特殊法人や特定業界を相手にのさばるような実態を少しは改善できるのではないでしょうか)。それから建築物と同じように、役人や業界団体のずさんな監査や癒着というリスクはありますが、法人(少なくとも上場企業)が公開するウェブサイトについては、「ウェブサイト基準法」のようなものにもとづいて、制作フローと納品物の監査を義務付けるとかですね。アクセシビリティ監査も含むようなものであれば、更によいでしょう。すると、費目に応じた請求がなされていなければフローとして違反だということになり、そして費目に応じた請求内容に不審な減額措置があればダンピングとなる。

しかし、同じ企業人でありながら、このていどの算数がわからない(あるいはわからないふりをして「サービス」の一言で片付けようとする)相手も多いわけです。実際のところ、会社を運営するための経費や細目・分類については、営業マンや管理部署の人間以外、実はサラリーマンと言っていても殆ど意識しないか無知なのです。簡単に言えば、多くのサラリーマンは実は会社とか企業のことなど殆どわかっていない。彼らが知っているのは自分が与えられた業務の細かいノウハウだけなのです。だからこそ、たいていの脱サラ自営業とか起業は失敗するのです。自分たちはサラリーマンだったから事業とか会社をやってゆけるという、絶望的に能天気な思い込みが、彼ら「ただのサラリーマン」を地獄にエスコートします。ただのサラリーマンに会社のことなど何一つ分かってはいません。

在宅ワーカーと比較されやすいサラリーマンについて、いささかきつい表現ですが明白な事実を披瀝するのはこれくらいでよいでしょう。在宅ワーカーを目指す主婦やフリーターのみなさんは、確かにその多くが事業どころか会社勤めすらしたことがないという意味で、稼いでゆくためのハードルは非常に高い、これもまた事実です。しかし、サラリーマンだからというだけで主婦よりも有利なのかと問われると、起業するジャンルにもよりますが、そんなことは全くないと言えます。どちらであろうと難しいのです。

[2009-08-23: コメントを転載しました]

yasuyuki goto said…

面白い視点ですね。サラリーマンは会社のことは何一つ分かっていない、これはそのとおりで、会社経営にはいろいろとややこしいことがあって、そういうこと は君たちは考えなくてもお金あげるからいいよ、考えるな、税金だけ払え、というシステムが大卒からサラリーマン、大卒から公務員という道でした。今、その 道が閉ざされつつあり、まさに清水寺の管主が2008年に書いた「大『変』」な時代です。私は、この「大『変』」に「化学」を加えて、「大変化」を学ぶこ とにチャンスを見出しています。これからも勉強させてください。ありがとう。

Takayuki KAWAMOTO said…

こんばんは。久々にコメントいただいてありがとうございます。後藤さんのように前向きな姿勢の方がおられると、ネガティブなことばかり書いている方もやりがいがあります。

い まやデジタル・アイデンティティにしても SaaS などクラウドのビジネスモデルにしても、デカいところばかりで面白くないと思っています。文芸評論家とかが書いている「帝国」そのまんまですから。 OpenID にしても、Amazon S3 にしても、MS Exchange にしても、それから Google にしても。

大きく動かせないときは小さい会社や個人の方が思い切ったことができると期待したいところです・・・うちの会社は某事情で動けませんが。

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KAWAMOTO Takayuki

Mr. KAWAMOTO Takayuki
also known as philsci
(birth day: Sep 20 1968)
live in Osaka city, Osaka, Japan.

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