最終更新日: 2008年08月29日

ビールの暗号と財宝

2007年08月16日 00:50

いま『暗号解読』(サイモン・シン)の下巻を半分くらいまで読んでいます(なぜか amazon.co.jp には下巻の画像がないので、MDのフロントには上巻を載せています)。なかなか分かりやすく暗号の仕組みや歴史を書いている中で、「ビール暗号(Beale ciphers)」というのが印象に残っています。科学哲学やってたならチューリングと言いたいところですが、ビール暗号のお話は暗号そのものよりも、周囲の人々について描かれている内容の方が面白い。

まず、おなじみ Wikipedia の概略をご紹介します。

ビール暗号とは三つの暗号文書のことで、その一つは現在の価値にしておおよそ 3,000 万ドルにもなる金銀の財宝のありかを示していると言われている。他の二つの暗号は、それぞれ財宝の内容を記していたり、その財宝の所有者あるいは財宝を受け継ぐ資格がある親族のリストになっているという。これらの暗号文書が知られるようになった経緯は、1885年に出版されたパンフレットにまで遡る。それによると、トマス・ジェファーソン・ビールと名乗っていた男性が1820年に、ヴァージニアの或る場所へ財宝を隠したというのだ。ビールは、その土地に住むロバート・モリスという宿屋の主人に、暗号化されたメッセージの入った箱を委ねて、どこかへ立ち去ってしまったという。そしてそれ以降、ビールの姿を見た者は誰もいない。箱を預かったモリスは亡くなる前に、箱から出した三通の暗号文書を友人に託した。そしてその友人は、暗号文書を解読するのに20年を費やして、やっと一通だけ解読に成功したのである。その一通には、隠された財宝の内容が書かれており、おおまかな隠し場所も書かれていた。こうして、パンフレットが公刊されてからというもの、残った二通の暗号文書を解読して財宝を見つけようと試みた者は何人もいたが、誰一人として解読には成功していない。

Beale ciphers‘, Wikipedia: the free encyclopedia (en).

Wikipedia をご覧いただくと、ビール暗号の配列を確認できます。なお、上記の説明に『暗号解読』の内容を付け加えておきます。モリスさんから暗号文書を託された友人という人物がパンフレットの著者なのだそうです。20年という人生の一部を浪費したと悟り、反省としてパンフレットを書いたのだそうな。もういいから、後は誰か好きにしてくれって感じか。

『暗号解読』の初版が1999年なので、それから8年ほど経っています。ビール暗号と財宝はどうなったのか。まず、こんなサイトがありました。タイトルもずばり「ビール暗号を解読したぞぉ。ビールの埋蔵庫も見つかったぜぃ!」 というタイトルが堂々とついております。ダニエル・コールという人物への追悼も兼ねたサイトで、解読された平文が全て掲載されているわけではありませんが、一部を引用すると次のようになります。

場所の暗号

トマス・ジェファソン・ビールからの最後のお願い。維持せよ、しからば汝が待つ報酬は莫大な量になるがゆえ、とても理解できないほどとなろう。この最後の文書が一つ前の文書と、埋蔵量の総量について矛盾するのは承知の上。なぜなら、既に他の者は自分たちの分け前を手にしたがゆえ。全てはつつがなく分け与えられん。

我らはこの旅を最後の仕事としよう。我らは大統領によって保証されているがゆえ、既に共有されていたものをそれぞれ均等あるいは適切に戻そう。私はこれら三通の文書を解読する鍵を残さず、財宝が容易に見つからぬようにする。既に文書を解読するのは不可能なり。政府は、我らが見つけた量と同じだけのものを与えてくれたのだ。感謝の握手は我らの受け取り。合衆国の財宝は、税が支払われてこそ認められん。

故に。我に生ける相続者はなし。

Decoded cipher‘, Daniel Cole and SWN/BealeSolved.com

要するにこれって、財宝は最初から置いてないって意味なんだろうなぁ(笑。でも、こういうのを高野秀行みたいな人に書いてもらうと、もっと面白くなるんだろーな・・・次は『怪獣記』とかいう本が出てますね。

ちなみに、このビール財宝がでたらめだと言っていた人たちの中には、こういう理屈があります。まず、パンフレットが公刊された時点で既に解読されていた第二文書(code no.2)は、アメリカの独立宣言に出てくる単語の頭文字と元の文章に使う文字とを対比させる「書籍暗号」と呼ばれる方式で暗号化されていました。しかし、解読された文字と独立宣言の単語の頭文字を比較してみると、解読された平文は頭文字の出現順序を間違えていたのです。また、ビールの財宝について述べた先のパンフレットで参照されている独立宣言と、オリジナルの独立宣言を比較しても、両者には違いがあるというのです。

これらの間違いは、ビール・パンフレットの著者がはじめから知っていたか、あるいは知らなかったかのどちらかだ。そして、知っていながらその点に言及しなかったか、あるいは暗号文を書いたときから気づいていなかったかのどちらかでしかありえない。

The Beale Papers Hoax‘, Roger Grambihler, 2002. (emphasis by philsci)

なるほど、こちらもそれなりに説得力があります。しかし、「見つけた」と写真まで掲載している方のサイトを見ても、まぁ財宝そのものはないわけですし、さきほどの「合衆国の財宝は、税が支払われてこそ認められん」という一文を読んでみると(正しい翻訳かどうかは心許ない)、何か肯定派と否定派の双方にとって意味のある結論なのかなぁと、思ってしまいます。

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