2017年08月27日11時41分 に初出の投稿

河本孝之Takayuki Kawamoto

Last modified: 2017-08-27 12:04:38

もう書いてもいいだろうけど、或るインターネット・ラジオのサービスが始まる前に、IP アドレスを使った接続制限について、某所から照会というか、IP アドレスによる制限というアイデアを実装して試験的なシステムを開発して欲しいというオーダーがあった。ちなみに、誰も Radiko.jp とは言っていない(笑)。もちろん当時はそういう会社があったかどうかもこちらは知らないわけで、だいたいそういう照会というのは目的を明かさずに「技術的な質問」として電t・・・いや、某所からやってくるわけだ。

でも、僕はそれには応じなかった。まず明らかな点として、コンテンツの配信サービスを IP アドレスで制限するというのは技術的には全くナンセンスだ(それだけで制限するなら串を通せば突破できることくらい、小学生でも分かる)。串を通してアクセスすることを規約違反にできるとしても、「規約違反」ということだけをもって何らかの違法性があるかのように扱えるわけではない。よって、IP アドレスによる単純な制限をかけてもすぐに回避方法が情報として出回り、そんな牧歌的かつ脆弱な手法は、ものの数日か数週間で役に立たなくなるだろう。おまけに、ISP のグローバル IP アドレスの貸し出しエリアというものは、既存の行政区画に対応しているとは限らないのである。特定の都道府県で放送されるラジオ番組に特定の IP レインジしかアクセスを認めなくしたら、その都道府県に住んでいてもアクセスできないという人が出てくる可能性はある。となると、相手は「IP アドレスによる制限」とだけ言ってきているが、実際にはそれを突破されることを想定したり、IP アドレスと行政単位とのズレを解消するような、何らかの対策を色々と考えて提案せよという、新しいアイデアを要求されているのと同じことになる。もちろん、やろうと思えば色々なアイデアは出せるかもしれないが、仮に何かを考え出しても、良くて「共同での」特許取得だろうし、悪ければ NDA の牽制でこちらが動けないのをいいことに代理店に結論だけ利用されるのがオチだ。

そもそも、なんのためにそういうことをする必要があるのか、こちらには全く事情が分からないので、オルタナティブを検討しようがなく、照会元には「そんなやり方は通用しない」と即答するしかないと思った。それに、テレビやラジオや新聞といったメディアがらみの案件は、こちらの知識や工数だけを吸い取られて IT 企業としてはペイないと分かっていたので、余計に食指が動かなかったという事情もある。

というふうに、上流のクライアントが自分達の知らない知識を使って、どこかへ投資したり、どこかと提携したり、あるいは技術的な企画を提案をするときに、技術的な可能性なりリスクについて照会したり、あるいは実質として提案書を代わりに作らせる制作プロダクションというものがある。というか、技術力もある上流工程のウェブ制作会社というのは、ほぼどこでも広告代理店の相談相手というサービスを提供しているだろう。なぜなら、もちろん場合によっては、そこから話が進むと、それなりの規模の案件を受注できる可能性があるからだ。ただ、僕が関西の巨大広告代理店さんの様子を見ていて思う限りでは、その可能性は非常に低い。いまのところ、IT 企業やウェブ制作会社がどれだけ高度な技術や知識を広告代理店に提供しても、ペイしないというのが経験則である。「IT ベンチャー」としてのビジネスモデルや技術・知識をもっている会社が、とりわけ資金力の乏しい時期に広告代理店に関わるとロクなことにならないのは、こういうことも一つの理由である。それなりの業容になれば余裕もあるとは思うが、知識や技術「しかない」ステージで一方的に工数やノウハウやアイデアを吸い取られるような構図にハマると、簡単に言えば使い捨てられるだけである。したがって、技術やビジネスモデルに自信を持っている IT ベンチャーの経営者は、どれだけ資金力が不足した初期のステージであっても、広告代理店からの投資や提携や案件は受けない方がよいと思う。同じ紐付きでも VC とは意味が違っており、VC は上場したり高額で買収されたときの収益を期待しているが、広告代理店にとってそんなことはどうでもよく、そのときに経産省や総務省の億単位の巨大案件にできる提案書を書けるスタッフが投資先にいれば、あとはどうなろうと知ったことではないというのが本音だと思う。

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