2017年05月17日16時20分 に初出の投稿

河本孝之Takayuki Kawamoto

Last modified: 2017-05-17 16:28:11

【読書感想】江戸しぐさの終焉

こういう、いったいどれがタイトルなのか書いてる当人が自覚していないと思われる記事を引用するのって、いわゆる academic writing の訓練を受けたり、高校時代からそれに相当する話題について友人とも議論していた(良くも悪くも)natural born academician とも言うべき僕らのような人間からすれば、或る意味ではフォーマットなんてものに拘らない書き方というのは扱いが面倒臭いんだよね。とりあえず hatena のスターもくっ付いてきたので、それは外したよ。くだらない。

さて、「江戸しぐさ」をネタに色々とイベントや通俗書をでっち上げるブームみたいなものとしては終焉したのだろうけど、水に語りかけましょうと子供たちへ教えるキチガイ教師みたいに、どこか外部からの批判が届かないところで生きながらえる可能性はある。学校というところは小学校だと担任が殆どの教科を一人で教えたりするので無自覚だろうと独裁国家になりやすく、科目別に担当が分かれる中学高校でも専門馬鹿がアカデミズム・コンプレックスなのかタコツボに入りやすいので、いずれにせよ他の教師や保護者から何をどう教えているのかが見えなくなる。これと同じで、着物教室や茶道教室や宗教系の集いといった集りでは、実際のところ何がどう伝えられているのか外部からは分からないので、着付けを教える人間がそれとなく「そういえば何年か前に『江戸しぐさ』というものが流行語になりまして」などと、くだらない薀蓄を語り出す可能性はいくらでもあろう。実際のところ、通俗的なまとめの羅列にすぎない哲学の学説一覧みたいな駄本やニーチェの本訳書などよりも、人の心情に訴えるこのような bullshit の方が、「ミーム」とまで呼ばれるように厄介なものである(その多くは心情に訴えると言うよりも、「責める」と言った方が日本人には効果的だ。それをよく知っているのが、詐欺師とインテリヤクザと広告人である)。

これに加えて、何か各論を全て同列に扱うことが民主的で公平で平等であり、更には民主的だったり公平だったり平等であることが無条件に良いことであるかのような妄想に取りつかれた人々がいて、批判する側もされる側も何らかの手法で「保存」して価値観を拡散させることが大切だと言い始める、生半可に哲学書をかじったような連中も出てきて混戦に陥ったりもする。そして次には、民主的であることが無条件に良いとは限らない・・・と露悪的なフレーズを振り回すだけで何かクールなことを口にしたかのような自意識に取りつかれるバカも多く出てきて、事態はまったく収拾がつかなくなる。

これも、さきほど書いたようにダイバーシティの通俗的な議論に対する批評と同じ内容が、価値観の多様化などという軽々しいフレーズにも当てはまる。ヒトの能力が有限である以上は、複数の尺度や基準や価値観を維持して多くの可能性を維持する方が好ましい。これは確かだが、それはメタレベルとしての基準を満たした価値観だけに当てはめればよく、闇雲にあらゆる価値観を維持するのは、事態を混乱させて効率を下げることにより、状況の変化へ即座に対応する能力や可能性を低下させてしまう。そして、状況の変化に対する対応の可否には、その内容の適切さといった条件だけではなく対応の速度が決定的となる場合もある。もちろん、僕は昨今の implementation first とか launch first のような、(たいていはバカな)経営者の見切り発車という起業や事業開始を支持するスローガンをここで復唱するつもりなどない。しかし単純に、或る程度のコミットメントとインセンティブを準備したうえで、ダメなものはダメだと明確に切り捨てたり、状況の変化に対して意思を示す必要もあろう。それによって、どういう残留リスクがあるかを予め誰でも包括的かつ明確に予測できるわけではないのだし、それゆえにこそコミットメントには責任と見返りのインセンティブが伴う(われわれ零細企業の役職者は責任だけでインセンティブなど殆どないが)。

そのようなわけで、一定の権威を擬制としてでも許容して、或るものは排除して或るものは受け入れるという決断が必要だ。江戸しぐさなるものを日本の(少なくとも公的な)教育機関から抹殺したところで、いったい我々にどういう文化的なリスクや不公正や内容の矮小化が起きるというのか。もちろん、些細なものにも価値はあろうから、インパクトが小さいというだけで制度的に何かを抹殺してよいという理由にはならないが、はっきり言って江戸しぐさは学説でもなければ我々自身の価値観でもない。もともと誰の価値観や伝統でもなく、それどころか学説ですらなかったものを抹殺して一体何の問題があろうか。

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